からきだ菖蒲館は、コミュニティセンター、図書館、児童館の複合施設です。今回まず多摩市の類似施設全て(コミュニティセンター6館、図書館5館、児童館10館) についての調査・ヒアリング・実測を行い、職員や市民と直接対話し、多摩市の地域活性や独自の施設の使われ方を見出し、設計に反映させていきました。
そして、市民(建設協議会)、行政の方とワークショップを重ね、3つのゾーンの配置、諸室の必要性・大きさ・使い方、各ゾーン間の複合の方法、 相互活用の仕方など、ハード、ソフト両面について丁寧な話し合いを進めながら設計のアイディアを固めていきました。
このような既存施設の調査や市民、行政とのワークショップを経て、各室が多機能に、また全体が複合的に使えるようにすることで、多くの地域住民に愛され、 地域コミュニティの中心施設になるように設計しています。元々この敷地は緑の小さい丘でした。その土地の記憶や環境を残すこと、土地の高低差に合わせて建物を配置して 1、2階ともに地上からアクセスできること、コミュニティセンター広場、児童館の園庭共に、明るく快適な空間とすることなどに配慮して設計しています。
敷地周囲には歩道や植栽を巡らし、建物は緩やかな起伏のある緑化で屋上全体を覆います。屋上緑化は、地上から望むことができ、地上に植えた緑と合わせて、 もとの土地が持っていた緑の丘の原風景を蘇らせることを意図しています。
また、近隣に対する輻射熱など、それまでの熱環境を変えないことを考え、ヒートアイランド 現象の緩和や地球温暖化に配慮しています。屋上には自然換気・排熱を行うために窓と、その屋根面に太陽光パネルを組み込んだハイサイドライトを設置し、自然エネルギーを積極的に活用しています。
その場所、その場所には独特のIRO(色、雰囲気、匂い)や記憶がある。そのIROや土地の記憶を継承して建築を作ることは重要だ。この敷地は小さい丘であった。 その丘で遊んで育った人々の記憶、窓から眺めて暮らした人々の想い出、それを建築として再構築した。敷地周囲を巡る約一層分の高低差を利用し、西側を二層、東側を一層として、 図書館やコミュニティセンターのメインエントランスを西側に、児童館の入り口を東側にすること、また建物周囲には今までなかった歩道や植栽を巡らし、 屋上を緩やかな起伏のついた緑化で覆い、土地の記憶を蘇らせるようにした。結果として21世紀型の建築、つまり環境に配慮した地球にやさしい建築にもなった。
もう一つ建築を設計する上で大切なことは、市民や行政の人とワークショップ等を通して徹底的に話し合ったり、何気なく使っている身近な建物を見ることだと思う。 市内の類似施設を全ての調査、実測を行い、市民や職員の方々と直接対話し、建物がどう建てられ、どう運営されているか、またどんな問題があるかを話し合った。 朝から日が沈むまで案内してくれた市職員の方の粘り強さ、一つ一つの部屋の大きさ、使われ方等を熱く語ってくれた市民の方々、誠意をもって対処された市役所の人達の熱意に感動した。
コスト以内で、各室が多機能で複合して使える、そして地域の人たちの願いを込めた、このまちのIROを持った建築が出来たと思う。
株式会社 新居千秋都市建築設計 代表取締役 新居千秋